ショパンと私」というwebサイトの管理人さんがサイトの記事をまとめて電子書籍にされてたようです。今日気付きました。
サイトのメインコンテンツである「人名録」を大幅に増補追記された内容となっており、そのページ数348ページ。(コンテンツとページ数が違っちゃってるみたいです)
まずはご出版おめでとうございます。これがたったの300円で読めるというのだから信じられない。もし紙に印刷して出版されたら、この10倍くらいの値段になるんじゃないでしょうか。良い意味で値段と内容が釣り合ってないですね。一読者としてはありがたい限りです。

さてこの『ショパンの交友録』ですが、ショパン本初の電子書籍専門書となるわけですが、この本が発行された意義はとても大きいです。今日はこのことについて書いてみます。

日本で電子書籍が普及しない理由について世間ではいろいろ言われておりますが、ビジネス面での話と実務面での問題がごっちゃになってて、結局「出版社の努力不足」とかなんとかでまとめちゃってる記事が多く見受けられます。

まず電子書籍とは何かについて。電子書籍専用のフォーマットのものと、既存の本をデータ化したものの区別がついてない人が意外に多いです。

電子書籍専用のフォーマットのものとはAmazonのkindleで読む為のazw形式のものや、iPhone/iPadなどで読めるePub形式のものがあります。(ショパンの交友録はePubです)
既存の本をデータ化とは自炊などと呼ばれ裁断→スキャンして画像化したものをいい、OCRをかけてPDF化したものなどが一般的です。

どちらもデジタル化された本ですが中身は全く違います。

これから電子書籍を発行するなら、本を制作した後、電子書籍専用のフォーマットで出せばいいでしょう。問題は過去に出版された本です。
私の経験で言えば、90年代半ばまでは厚紙にトレース用紙を敷いて鉛筆でレイアウトを書いたりしていました。つまり90年代以前の本はデータが無いということです。
ということは90年代以前の本は全く新しく作り直すか、本そのものを裁断・スキャンしてデータ化するしかありません。
さらにもっと古い著作権の切れた本は国立国会図書館がデータ化して公開していたり、有志がテキストに打ち直して公開している青空文庫などのサービスがあります。

まとめると
これから出る本・・・電子書籍専用のフォーマットで書き出し(azw、ePub他)
90年代以前の本・・・裁断してスキャン(PDF、jpeg)
著作権の切れた本・・・テキストデータ化(txt)

90年代以降から最近までの本はどうすんだって話ですがこれがなかなか厄介です。
売れなくなったものはともかく、この時代の出版物には売れ筋のものも結構含まれてます。
この時代、中途半端にいろんなページレイアウトソフトで作ってたりするんでボタン一つで簡単に書き出しってワケにもいきません。いわゆる今現在出版社が抱えてる悩みの種はこの辺りの事情も大きいんじゃないでしょうか。

本が出来るまでの流れ
出版社の編集部が本を作ってると思われてるかもしれませんが、ある意味それは正しくもあり間違いでもあります。

一例をあげると出版社の編集部が本の企画を考えて、著者が中身を書き、出来上がった原稿を元に製作会社がレイアウトして、印刷所が印刷・製本して本にします。本1冊作るのにいろんな人の手を通っているのです。
電子書籍にするには上の例で言えば印刷・製本をなくして、製作屋さんに作ってもらったデータを電子書籍フォーマットで書き出せば良いワケです。

ただ広告や芸能人等のページが多く含まれている雑誌だとちょっと事情が違います。この手の本は印刷所で最終的にチェックを入れる場合が多く(色校正)最終的なデータは印刷所にあることになり、これを電子書籍化するには製作屋からでなく印刷屋からデータを引き上げてデータ化しなきゃいけなくなります。写真集やカラー図版の多い本もこういうケースに当てはまるでしょう。
雑誌なんて電子書籍で手軽に読みたい、そう思ってる人も多いと思いますが、作る側からすると雑誌の方がむしろ面倒事が多いのです。 いっそのこと電子書籍専用の媒体を創刊しちゃった方が早いかもしれません。

電子書籍が普及しない本当の理由
さて、長くなりましたが結局本を電子化するといっても一筋縄ではいかないというのが、何となく分かって頂けたのではないでしょうか。出版社の努力不足と切って捨てるのは簡単ですが、売れるかどうか分からないコンテンツのものまで含めて何万とある媒体をデジタル化することは恐ろしい労力です。

仮に必ず売れる本があったとして、それのデータがどこにあるか探して、製作屋や印刷所からデータを引き上げて(もちろん有料)、そのデータをまとめて電子書籍化して、いったい幾らで売れば利益になるんでしょう。そしてその本はその時だけでなく売れ続けるようにするにはどうすればよいかという問題も残されています。

日本のiTunesStoeで売ってる本は電子書籍ではなく実はアプリだということはご存知でしょうか。iPhoneやiPadで読めるから電子書籍でしょって思ってる人も多いと思いますが違います。
これは利用者からすれば読める事には変わりないのであまり問題ではありませんが、出版社からすると宣伝やマーケティングといった大きな問題を含んでいます。アプリは毎日登録されていくので、古い本(古いアプリ)はどんどん埋もれていってしまうのです。だから漫画などのコンテンツは各1話ごとに分けて、少しでも長く目につくように登録したりと涙ぐましい努力をしています。これは書店だとありえない現象です。電子書籍(アプリ)をiTunesStoreで売るのも今はまだ大変な時代なのです。

電子の本の未来の姿
結論を言うと、電子書籍を普及させるには戦時中のように紙媒体の発行を規制するという方法もありますが、実際問題無理というか今のところ利用者にとって紙を規制するメリットはありません。

仮に一斉に紙媒体を止めて、強引に電子化したとして、みんなの家にある本が完全に電子と取って代わるのに何年かかるでしょう。10年?20年?たかだか15年前のワープロのデータも読めなくなってる今の現状を考えると、紙媒体をデータ化してしまうのは博打が過ぎる気もします。(50年後にiPadで本を読んでる姿を想像できますか?)

結局、紙を規制せずに電子書籍を増やすには「電子書籍専用の本を増やす」という方法が確実なのですが、ここで最初の話につながります。

この森村さんの『ショパンの交友録』のように、元がしっかりしたwebサイトのコンテンツであり、さらに追記増補された電子書籍が売れる時代になれば、将来的にはこういったコンテンツが増えていって電子書籍が普及するかもしれませんね。この本が発行された意義はとても大きいのです。

 

webサイト:ショパンと私
電子書籍販売wook(ウック):ショパンの交友録